健康診断の見方について
特定健診や職場の健康診断を終えると、検査結果が記された用紙を受け取られますが、専門的な用語や検査結果が羅列され、アルファベットのA~Eの判定は覚えているけど、肝心の体の状態がどうだったかは今一つわからないという方も多いのではないでしょうか? こちらのページでは皆様が受け取られた健康診断の結果をみて、医療者がどのように考えているかについて説明させていただきます。また、健診と検診の違いや、人間ドックの上手な活用方法などについて私見を述べさせていただきます。せっかくですので健康診断を最大限活用しましょう!
まずは健康診断の種類についての説明です。
- 特定健診:40~74歳が対象で、市町村や健康保険組合など保険者が義務付けられている健康診断です。メタボリックシンドロームや生活習慣病の早期発見が目的です。
- 後期高齢者医療健診:75歳以上が対象の特定健診です。
- 健康診断:会社などでお勤めをされている方が受けられる健康診断です。年に1回は健康診断が行われることが義務付けられています。雇い入れ時にも行うことがあります。
- 特殊健康診断:放射線や化学物質など有害業務に従事する労働者が対象となります。年に2回行うことが義務付けられています。
以下のような検査が行われます(受けられる健診によって内容は異なります)。
- 身体診察
- 身体測定
- 視力、聴力
- 血圧
- 尿検査
- 血液検査:脂質、糖、肝機能、貧血
- 胸部レントゲン
- 心電図
- 胃透視/胃カメラ
- 腹部超音波
身体診察
医師による診察が行われます。気になる症状の有無を聴取し、視診・触診・聴診で異常がないか確認します。聴診では呼吸音の異常や、心臓弁膜症を疑う雑音や不整脈がないかなどをチェックします。触診ではリンパ節や甲状腺の腫脹、下肢のむくみがないかなどを確認します。心臓弁膜症や不整脈が疑われた際は、採血、胸部レントゲン、12誘導心電図、ホルター心電図、心臓超音波検査を追加します。詳しくは心臓弁膜症、不整脈のページをご覧ください。
身体測定
身長、体重、腹囲を計測し、BMIを算出やメタボリックシンドロームの評価を行います。メタボリックシンドロームは長らく腹囲:男性≧85㎝、女性≧90㎝が基準値でしたが、2024年3月に新たな基準が提言されており、今後変更となる可能性があります。腹囲に加え、血圧・脂質・血糖値のいずれか2つ以上で基準値を外れていると、メタボリックシンドロームの診断となります。
血圧
血圧を測定する際は収縮期血圧と拡張期血圧の2つの数値を測定します。高血圧と診断されるのは140/90mmHg以上の場合です。血圧は様々な要因で変動するため、健診で血圧が高めだと指摘された場合は、まずはご自宅で1週間程度は血圧を測定することがおすすめです。ご自宅でも高血圧が続く場合は、治療の開始を検討します。詳しくは高血圧に関するページをご覧ください。
尿蛋白、尿糖
テステープと呼ばれるリトマス試験紙のようなものを尿に浸し、その色の変化で尿中に含まれる蛋白質や糖の量を測定しています。+(プラス)であれば陽性になります。テステープは定性検査と呼ばれ、提出された尿の濃度や保存条件によっては誤った結果が出てしまう可能性があります。そのため健診で異常を指摘された場合は、医療機関で尿蛋白定量や尿沈渣と呼ばれるより正確な検査や、異常を示す原因となる病気の検索を行います。
血液検査
①肝機能
肝臓の状態を示す血液検査項目です。AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPの数値を調べます。ASTは心臓、筋肉、肝臓に広く分布する酵素で、ALTは肝臓への特異性の高い酵素です。どちらも30以下が正常値です。γ-GTPは、肝臓あるいは胆道の部位に異常があると血液中の数値が上昇し、50以下が正常値です。ASTとALTの上昇のパターンによって、原因となる病気を絞ることができます。ASTよりもALTの上昇が目立つ場合、最近では非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と呼ばれる病気が増えています(いわゆる脂肪肝です)。一部のNAFLDはより重篤な病気へ移行することがわかっているため、定期的な採血や超音波検査を行うことが推奨されます。詳しくは非アルコール性脂肪性肝疾患のページをご覧ください。γ-GTPが上昇する原因で最も多いのはアルコールで、γGTPのみの上昇であれば多くは禁酒をすると速やかに低下します。
肝機能で異常が指摘された場合は、採血や超音波検査を行い、ウイルス性肝疾患や自己免疫性疾患など、原因となる病気がないか検索します。
②脂質
血液中に含まれる脂質には、LDL(悪玉)コレステロール、HDL(善玉)コレステロール、中性脂肪(トリグリセリド)などの種類があり、数値によって脂質異常症の診断を行います。具体的には、中性脂肪は150
mg/dL以上、HDLコレステロールは40 mg/dL未満、LDLコレステロールは140 mg/dL以上が異常値です。脂質異常症は動脈硬化を促進させ、脳血管障害(脳梗塞
など)、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、閉塞性動脈硬化症などの病気を発症する原因となります。女性、特に閉経後の女性の場合は、女性ホルモンの減少によって脂質の値が上昇しやすいです。
健診で異常を指摘された際は、特に中性脂肪は食事による影響を受けやすいため検査当日の食事時間を確認し、採血の再検査を検討します。また、動脈硬化の進行をチェックするため、ABI検査や頸動脈の超音波検査を行うことが推奨されます。詳しくは脂質異常症のページをご覧ください。
③血糖
血液中の糖の濃度を数値化したものが血糖値です。空腹時血糖が100~125 mg/dLの間は要注意(空腹時高血糖)、126 mg/dL以上は異常値(糖尿病型)です。血糖値が高い場合は糖尿病の可能性が疑われます。検査当日の食事時間を確認し、HbA1cと一緒に再検査を行います。糖尿病の診断がついた場合の対応や注意点は糖尿病のページをご覧ください。
③貧血
血液中の赤血球の中にあるヘモグロビンの濃度が低くなった状態です。正常値は男性で13~16g/dL、女性で12~14g/dLで、正常値を下回った場合に貧血の診断となります。
健診で貧血を指摘された場合は、貧血の原因を調べるためまずは採血検査を行います。よくある原因は鉄欠乏性貧血といってヘモグロビンの原料となる鉄が体内で不足していることで、貧血へ至っています。便が黒い、赤いなどの変化がみられる場合は、消化管出血が原因で鉄が不足している可能性があるため、詳しい検査を行う必要があります。その他、ビタミンや葉酸など栄養素の不足、慢性腎臓病、胃の手術後などが原因として挙げられます。過去の健診と比べて値が下がっている場合は、かならず医療機関を受診してください。
健診と検診
「健診」と「検診」は混同されやすいですが、次のような違いがあります。
「健診」は健康診断を指し、受診される方が健康かどうかを確認することが主な役割です。一方、「検診」はがん検診のように、特定の病気を早期発見することが役割です。「健診」は全体をざっくりと調べ、「検診」は狭い範囲をしっかりと調べるようなイメージになります。それぞれに長所と短所があるため、組み合わせることでより高い効果が得られます。
検診と人間ドックについて
名古屋市では各種がん検診、骨粗しょう症検診、歯周病検診、物忘れ検診などが設けられています。検診を考える際に大切なのは、検診は検査を受ける大人数の中から効率的に病気を発見できるよう設計されているという点です。つまり、病気を見つける能力は優れているけど時間的・金銭的コストがかかりすぎる検査は、検診として成り立ちません。大腸がん検診を例に挙げると、大腸がん検診では便潜血検査で便中の血液成分を調べます。便潜血検査の感度(病気を発見する能力)は文献にもよりますが、50-60%程度と決して高くはなく、検査で陰性と出ても大腸がんを見落としている可能性がそれなりにあることになります(偽陰性が多い)。一方、大腸内視鏡検査は病気を発見する能力は高いですが、検診で行うにはコストや体への負担が大きいため現実的ではありません。
すべての病気を早期発見することは難しいですが、早期発見する手段が確立されている病気は定期的にチェックすることをおすすめします。決して高額な検査を勧めているわけではありませんが、人間ドックや健診のオプション検査などを併用することで、より高い精度の検査を受けることができます。
人間ドックは医療機関によって様々なラインナップが提供されていますが、ここからはその中でも健康診断や検診と併用することが有用だと個人的に感じられるものをピックアップしましたので、ぜひ参考にしてください。
- 【〇】 頭部MRI
- 頭の中を高い解像度で評価することができます。脳腫瘍やクモ膜下出血の原因となりうる未破裂脳動脈瘤がないか、頸部~頭蓋内血管で狭窄がないかチェックすることが主な目的になります。脳動脈瘤や血管に狭窄がなければ、繰り返し検査を行う意義は大きくないと思います。
- 【△~〇】CT、PET-CT
- 肺や腹部臓器のがんを検出することが可能です。特にPET-CTではがん細胞がブドウ糖を正常組織よりも消費する特性を利用し、CTよりも高い精度で評価することができます。PET-CTでもすべてのがんが調べられるわけではなく、胃がんや前立腺がんなど、がんの種類によっては苦手な領域もあります。検査を受けたことで病気の早期発見につながったケースはあるので、一定の効果はあると思われますが、費用が高額で被ばくのリスクなどもあるため、強くはおすすめしません。
- 【◎】腹部・心臓超音波
- 超音波を利用して体内の臓器を観察することができます。簡便で体への負担もなく、繰り返し検査を行うことが可能です。採血や心電図、レントゲンなど、他の検査項目で異常があれば追加することをおすすめします。また女性の場合、特に卵巣腫瘍は症状が出にくいため、子宮頸がん検査と併せて定期的に超音波検査を受けることをおすすめします。
- 【◎】胃カメラ、大腸カメラ
- 胃がんや胃十二指腸潰瘍、大腸がんや大腸ポリープなどの病気を発見できます。健診で行われるバリウム検査より胃カメラのほうが病気を発見する精度が高く、おすすめです。その際に胃がんの原因となるピロリ菌のチェックも併せて行い、ピロリ菌が見つかれば除菌治療を受けるようにしてください。前述したとおり便潜血検査だけでは、一定の確率で大腸がんや大腸ポリープの見落としが起こりうるため、40歳以上の方は一度大腸カメラを受けていただくことをおすすめします。過去にポリープが指摘されている場合は、担当医と相談し定期的に検査を受けてください。
- 【△~〇】腫瘍マーカー
- 腫瘍マーカーは種類によっては病気を発見する能力が低いものもあり、一律にはおすすめしません。前立腺がんのマーカー値であるPSAは腫瘍マーカーの中では病気を発見する能力が高いので、50歳以上の男性では測定することをおすすめします。