血管症状や心臓の病気を診療
循環器内科は心臓や血管に関わる病気の診療を行います。
循環器内科の病気で起こりうる症状には、以下のようなものがあります。特に注意が必要なのは、「何時何分」に発症したかをしっかり言えるような急激に症状が出たケースです。心臓や血管の異常の可能性があるため、速やかに医療機関を受診してください。
当院では血液検査、胸部レントゲン、12誘導心電図、ホルター心電図、超音波検査など、循環器疾患の診断を行う際に必要な検査を配備しています。
循環器内科の病気で起こりうる症状
- 息が切れる、疲れやすい
- 足にむくみがある
- 動悸がある
- 脈が乱れている、脈が速い、もしくは遅い
- めまいを感じる
- 失神する
- 締め付けられるような胸痛、背中の痛み
- 歩いていると足が痛くなる、以前よりも長い距離が歩けない など
循環器内科で扱う主な疾患
- 心不全
- 不整脈
- 心臓弁膜症
- 虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)
- 心筋症
- 大動脈瘤
- 閉塞性動脈硬化症 など
心不全
心臓は全身に血液を送るポンプの役割をしています。心不全とは、心臓や心臓以外に何らかの異常があり、ポンプとしての役割が十分に果たせていない状態を指します。その結果、息切れや倦怠感、足のむくみなどの症状が出現します。最も多い原因は虚血性心疾患、高血圧、心臓弁膜症です。貧血やホルモンの病気など、心臓以外が原因で発症することもあります。
心不全は高齢者になるほど発症しやすく、現在国内におよそ120万人の患者さまがいると言われており、高齢化社会の進行によって今後も増加すると予想されています。また、心不全は年齢を重ねるごとに病状が進行することが知られています。以下の表の通り、病状に応じてステージA~Dに分けられます。ステージBでは自覚症状はないものの、高血圧など心不全の原因となる病気が出現し、徐々に心臓に負担をかけている段階で、ステージCに達すると息切れや足のむくみなどの症状が出現します。薬物治療を行うことで症状を改善させることができますが、その後も再発のリスクがあります。心不全で入院された方は、その後の2-3年の間で約10-30%が再入院することがわかっています。再発を繰り返すほど心不全の患者さまの容態は悪化し、一部はステージDという最適な治療を行っても再発を繰り返してしまう難治性の状態へ至ります。
心不全の患者さまは定期的に血液検査、胸部レントゲン、心臓超音波、心電図などで病気の評価を行います。また、日頃から血圧や体重測定を行うことがおすすめです。体重の増加や足のむくみが出てきた場合は、心不全を再発している可能性があるため、早めに医療機関を受診してください。
心不全の治療では次の2つが重要です。それは「症状を楽にする」ことと「再発を予防する」ことです。症状を楽にする薬剤でよく使われるのは利尿剤や血管拡張剤です。在宅医療では、ステージDの心不全に対し、症状緩和のために医療麻薬であるモルヒネを使用することがあります。心臓の収縮力(左室駆出率)によって、心不全の再発を予防することができる薬剤が異なります。心臓の収縮力が落ちている場合は、ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、ミネラルコルチコイド阻害薬、SGLT2阻害薬などを使用することで、再発のリスクを下げることができます。心臓の収縮力が保たれている場合、SGLT2阻害薬に再発のリスクを低下させる効果が示されています。薬物治療以外では、心不全のそもそもの原因となっている病気に対する治療を行います。また、運動や禁煙、ワクチン接種(インフルエンザ、肺炎球菌)を行うことで心不全の発症や再発予防効果が示されています。
不整脈
心臓は刺激伝導系と呼ばれる部分に電気が流れることによって、規則的に拍動しています。電気の流れや電気の発生の異常によって、心臓の拍動する頻度が極端に多い、少ない、または乱れている状態を不整脈と呼びます。不整脈によって、動悸や息切れ、胸の違和感、めまい、血の気が引いて目の前が暗くなる、失神などの症状が出現することがあります。
不整脈の診断は心電図で行います。不整脈が実際に出ているときに心電図を測定する必要があるため、違和感があった場合は速やかに医療機関を受診し、心電図を測定することを推奨します。最近ではApple
watchなどのウェアラブル端末で、心電図や心拍数の記録を行えるものがあります。現時点では精度の問題や診断できる不整脈が限定されていることなどから、ウェアラブル端末の記録だけで不整脈と診断することは難しいです。ただ、ウェアラブル端末の記録が疑うきっかけになることもありますので、端末をお持ちの方で不整脈やその他異常を検出された場合は、ぜひ結果をご持参ください。
不整脈にはさまざまな種類がありますが、その中でも代表的なものを解説いたします。
①期外収縮(心房期外収縮/心室期外収縮)
心臓は洞結節と呼ばれる電気の発信源から規則的に電気が発信されることで、およそ1分間で60回拍動します。期外収縮とは、洞結節以外から電気が発信されることを指し、発信源の場所によって心房期外収縮と心室期外収縮に分けられます。自覚症状は無い方が多いですが、期外収縮の頻度が多いと、動悸や脈の乱れ(脈が飛ぶ感じ)、息切れなどの自覚症状がみられます。また、期外収縮の頻度が多いと、心房期外収縮では心房細動、心室期外収縮では心室頻拍など、別の不整脈が出やすくなります。特に心室期外収縮では、その頻度が多いことが原因で心臓の機能が低下する場合があります。
期外収縮は健康診断で指摘される不整脈の中で最も多く、1日分の心電図を調べてみるとほとんどの方で検出されます。期外収縮が指摘された場合は、ホルター心電図で1日分の心電図を記録し、実際にどの程度期外収縮が出ているか、危険な不整脈を合併していないかなどをチェックします。
期外収縮が高頻度で出ている場合や、症状がある場合は治療を検討します。心房期外収縮に対しては、減量やアルコールの制限、ストレスの軽減などが推奨されます。いずれの期外収縮に対しても、β遮断薬とよばれる薬剤を使用します。心室期外収縮では心臓の機能に影響を及ぼしている場合は、カテーテルアブレーションと呼ばれるカテーテル治療を行う場合があります。
②心房細動
心房細動は高齢者に多くみられる不整脈で、心房期外収縮をきっかけに心房が無秩序、かつ高頻度に拍動することで心拍が不規則となります。心拍が不規則になると、心臓内で血液がうっ滞し、血栓(血のかたまり)を作ってしまうことがあります。そうしてできた血栓が脳の動脈に詰まると、心原性脳塞栓症という最も重症度の高い脳梗塞を発症します。また、不規則な拍動によって心臓に負担がかかり、心不全を発症することもあります。心房細動の症状は個人差が大きく、知らない間に不整脈が出ていたという方も珍しくありません。
心房細動は持続期間によって、次の3つに分けられます。
7日以内―発作性心房細動、7日から1年以内―持続性心房細動、1年以上―長期持続性心房細動
心房細動の治療は薬物治療とそれ以外に分けられます。薬物療法では、脳梗塞の予防のために脳梗塞を発症するリスクが高いと判断された場合は、抗凝固薬という血液をサラサラにする薬を服用する必要があります。またβ遮断薬や抗不整脈薬を使用することで、心拍数を抑え、不整脈自体を停止させることができます。その他には、カテーテルアブレーション治療を行うことで根本的に心房細動を発生しなくなるようにすることができます。
③心房粗動
心房粗動は心房細動に合併することの多い不整脈です。心房細動とは異なり心拍は規則的ですが、血栓を作ることがあるため抗凝固薬を使用します。その他に心房細動と同様に心拍数を抑える薬剤を使用しますがそれだけでは上手くいかないことも多く、根本的な治療としてカテーテルアブレーションが必要となるケースがあります。
④発作性上室性頻拍
発作性上室頻拍は、規則的な頻脈が特徴の不整脈です。いくつかの種類に分かれますが、代表的なものでは心臓内に刺激伝導系とは異なる電気の通り道が存在し、その経路を介して電気刺激が伝わることが原因とされます。健康診断の心電図で時々指摘されるWPW症候群とは、通常とは異なる電気の通り道が生まれつきあることを指しています。WPW症候群による頻脈を房室回帰性頻拍(AVRT)と呼びます。似た名前の房室結節リエントリー性頻拍(AVNRT)も同などの頻度でみられます。発作性上室性頻拍はカテーテルアブレーションの治療の成功率が高い不整脈のため、根本的な治療を受けられることをおすすめします。
⑤心室頻拍
心室期外収縮が3連続以上続くことを、非持続性心室頻拍と呼びます。非持続性心室頻拍が30秒以上続くことを心室頻拍と呼び、最も重篤な不整脈の1つです。心室頻拍の症状は心拍数にもよりますが、特に頻脈の場合は心臓がポンプとして機能を果たすことができなくなり、血圧低下や意識消失を来し、救命のためにAEDによる電気的除細動が必要な場合があります。心室頻拍が見つかった場合は、心臓に何らかの持病がないか詳しい検査を受ける必要があります。治療では薬物治療やカテーテルアブレーションに加え、不整脈のリスクが高い場合は植え込み型除細動器(ICD)と呼ばれる機械を体内に留置することもあります。
⑥房室ブロック
心臓の心房と心室をつなぐ電気の通り道が、何らかの異常で障害されている状態です。障害の程度によって1~3度に分けられ、3度が最も重症です。1度房室ブロックは健康診断でも指摘される方がいますが、特に症状などが無ければ経過観察となります。将来的に障害の度合いが進行する可能性があるため、定期的に検査を受けられることをおすすめします。2度、または3度房室ブロックでは原因を調べ、その結果、ペースメーカーの植え込み手術が必要となることがあります。
⑦洞不全症候群
洞結節と呼ばれる電気の発信源に異常が生じ、心拍数が低下した状態です。めまいや息切れ、失神などの症状を伴うことがあります。薬剤やホルモンの異常などが原因で起こる場合もありますが、70~80歳代の高齢者では特発性という明らかな原因が同定できないケースが多いです。心拍数の低下と前述の症状に関連性が認められた場合は、ペースメーカーの植え込み手術が行われます。
心臓弁膜症
心臓は左右の心房と心室の合計4つの部屋に分かれています。心臓には逆流を防ぎ、血液が一方通行で流れるための「逆流防止」弁が4か所あります。4つの弁はそれぞれ大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁と呼ばれます。心臓弁膜症とは何らかの原因によって、これらの弁が正常に機能しなくなることを指します。弁が硬くなり、完全に開くことができなくなることを狭窄と呼び、弁が完全に閉じることができなくなり、逆流が生じることを閉鎖不全と呼びます。すべての弁で狭窄と閉鎖不全が起こりますが、特に頻度が多いのは以下の4種類です。
- 大動脈弁狭窄症
- 大動脈弁閉鎖不全症
- 僧帽弁閉鎖不全症
- 三尖弁閉鎖不全症
心臓弁膜症では息切れ、胸の痛み、めまい、失神などの症状が出ることがあります。また、弁膜症が進行することによって、心不全や不整脈を合併することもあります。聴診や胸部レントゲン、心臓超音波検査などを用いて、診断を行います。特に心臓超音波検査が重要で、心臓弁膜症の重症度を評価することができます。一般的に心臓弁膜症は加齢に伴って進行しやすいため、過去に指摘されたことがある方は、定期的なフォローを受けることをおすすめします。不整脈を合併していないかチェックするため、ホルター心電図を行うこともあります。
心臓弁膜症の治療は、症状に対する治療と根本的な治療に分けられます。心不全を合併している場合は、利尿剤など心不全を改善する薬物療法を行います。不整脈に対しても、薬物療法を行い症状の改善を行います。一方で根本的な治療は手術です。弁膜症の重症度や合併している病気によって、手術が必要な状態かどうかを判断します。当院では適切な評価を行うために、心臓超音波検査やホルター心電図などの検査を行います。手術方法は外科的手術とカテーテル手術に分かれます。カテーテル手術の代表例は、大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVIまたはTAVR)で、外科的手術と比較して体に対する負担が小さいため、高齢の方でも治療を受けることが可能です。近年ではその他の心臓弁膜症に対してもカテーテルで手術できる分野が増加しています。お体の状態や治療に対する希望をお伺いして、最適な治療方法を提案させていただきます。
虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)
心臓は冠動脈を通じて酸素を心臓に取り込んでいます。狭心症はこの冠動脈が狭窄し、酸素が不足する状態です。また、心筋梗塞では冠動脈が狭窄・閉塞し、心筋が壊死する状態です。これらをまとめて虚血性心疾患と呼びます。虚血性心疾患では胸痛、特に締め付けられるような胸痛が特徴です。歩行中や階段の上り下りで胸痛が出ることもあります。その他に背中や肩、腕、奥歯の痛み、のどの違和感、冷や汗、嘔気嘔吐など様々な形で症状が現れることがあります。
虚血性心疾患は以下の2つが原因で生じます。
1つ目は動脈硬化です。高血圧、糖尿病、脂質異常症の生活習慣病や加齢、喫煙、肥満などの危険因子(リスクファクター)がある場合、動脈硬化は進行しやすいです。動脈の血管の壁にプラークと呼ばれるコレステロールなどの塊が沈着することで血管の内側が狭くなります。特に被膜の薄い不安定プラークでは、何らかの原因でプラークに亀裂が生じた際に血液の塊(血栓)を急激に作り、症状が出現します。
2つ目は冠動脈の攣縮(れんしゅく)です。日本人に比較的多いタイプで、夜間~朝方の就寝中や安静時に胸の痛みが出やすいことが特徴です。多量の飲酒を行った翌朝や喫煙などをきっかけに症状が出現することもあります。
虚血性心疾患では、問診で症状のパターンを確認し、動脈硬化を促進させる危険因子の有無をチェックすることが重要です。また、血液検査、心電図、ホルター心電図、胸部レントゲン、心臓超音波検査などを行い、病気の状態を評価します。特に、血液検査での心筋逸脱酵素の上昇や心電図の異常を認めた場合は、心筋梗塞として早急に血流を回復させ、心筋の壊死を最小限に留めることが重要です。狭心症では冠動脈CT検査や冠動脈造影検査で、直接的に冠動脈の狭窄を確認することもあります。
虚血性心疾患の治療は手術と薬物療法に分けられます。手術には経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と冠動脈バイパス手術(CABG)があります。心筋梗塞の場合は、早急に血流を回復させることが望ましいため、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が選択されることが多いです。年齢や病気の重症度、リスクファクターなどによって、手術方法は総合的に判断されます。いずれかの手術を受けた場合は、再度血管が狭窄・閉塞するリスクがあるため、抗血小板薬と呼ばれる血液をサラサラにする薬を継続的に服用する必要があります。その他には生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症)に対する治療薬を使用します。特に脂質異常症に対するスタチンは、虚血性心疾患の発症や再発に対する予防効果が示されているため重要です。冠動脈の攣縮によって症状が出現する場合は、硝酸薬(ニトログリセリンなど)やCa拮抗薬のような血管を拡げる作用を持つ薬剤を使用します。禁煙や減量など、生活習慣の見直しも一緒に行うことが大切です。
下肢閉塞性動脈疾患
下肢閉塞性動脈疾患は、腸骨動脈~下腿動脈と呼ばれる下肢の血管の動脈硬化が進行することで、血管の内側が狭窄・閉塞し、血流が不足している状態です。虚血性心疾患と同様に、高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病などの生活習慣病や加齢、喫煙、肥満などの危険因子があると、動脈硬化は進行しやすいです。
病気の進行状態によって、出てくる症状は異なります。初期は無症状ですが、進行すると歩く際にふくらはぎを中心に痛みが生じ、休憩するとまた歩けるようになる、間歇性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれる症状が出現します。歩行する時は下肢の筋肉は安静時と比べて10倍以上の血液を必要とし、より血流が不足しやすくなるため、歩行時に症状が出やすいです。間歇性跛行がさらに進行すると、安静にしていても痛みが生じる状態になります。最終段階まで進行すると、皮膚組織の維持や傷を治癒するだけの血流も保つことができず、足首から末端の足指やかかとを中心に皮膚の壊死や潰瘍が出現します。
下肢閉塞性動脈疾患の診断で最も重要な検査は、ABI(ankle
brachial pressure
index)検査です。ABI検査では両足首と両腕の4か所の血圧を測定し、腕の血圧に比べて足の血圧がどの程度か比率(足首収縮期血圧÷上腕収縮期血圧)を調べます。正常は1.0~1.40で、腕の血圧よりも足の血圧が高くなります。0.90未満の場合は、下肢動脈の狭窄・閉塞の可能性があります。症状のない早期の足の動脈硬化を発見することも可能です。0.90~1.0はグレーゾーンです。1.40以上の場合は、高度の動脈硬化の可能性があるため注意が必要です。ABI検査で異常を示した場合は、下肢動脈超音波やCT・MRI検査を行い、実際に狭窄・閉塞している部分の評価を行います。動脈硬化は下肢の血管のみに生じるわけではないため、ABI検査で異常が指摘された場合は、全身の動脈にも同様に動脈硬化が生じている可能性があります。A特に虚血性心疾患や脳梗塞などの重篤な疾患のリスクがないか、心電図や心臓・頸動脈超音波検査を行うことをおすすめします。ABI検査は簡便な検査ですので、50歳以上の方や喫煙習慣のある方、糖尿病、腎臓病など動脈硬化のリスクの高い方は、年に1回はABI検査を受け、ご自身の動脈硬化の状態を把握しましょう。
治療は手術と薬物療法に分かれます。カテーテルによる血管内治療や外科的な手術(バイパス手術)によって、血流を回復させます。手術は一般的にはABI検査で異常を示し、間欠性跛行などの症状がある方が対象となります。手術を受けられた方は、抗血小板薬と呼ばれる血液をサラサラにする薬を継続的に服用する必要があります。また、病状が進行し下肢の組織の壊死や潰瘍が出現した場合は、前述の手術だけでなく、壊死した部分の切除や軟膏などによる創部の処置が長期的に必要になるケースがあります。当院は日本フットケア・足病医学会の専門的な講習を終えておりますので、長期的な処置が必要な方に対しても適切なケアを提供することが可能です。生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症)に対する治療や、禁煙や減量を行い、再発予防を行うことも重要です。
静脈血栓塞栓症
静脈血栓塞栓症とは、深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症をまとめた病気のことです。主に下肢(ふくらはぎや大腿部)や骨盤内の静脈に血の塊(血栓)が生じ、静脈の血流が障害される状態を深部静脈血栓症と呼びます。また、下肢にできた血栓が肺動脈まで移動した状態を肺血栓塞栓症と呼びます。飛行機内のように長時間十分な水分を摂らずに、同じ姿勢で座っていると血栓ができやすくなるため、エコノミー症候群とも呼ばれます。深部静脈血栓症では血栓のできた側の足の痛みやむくみ、色調の変化が主な症状です。右足よりも左足でより血栓が生じやすいです。肺血栓塞栓症では突発的な胸痛や息切れ、失神に加え、血栓が大きい場合は、心肺停止へ至る場合もある危険な病気です。
血栓ができやすくなる状態、原因には以下のようなものがあります。
- 長時間同じ姿勢を保ち続けている(飛行機の中、寝たきりなど)
- 足の骨折
- 肥満
- 妊娠
- 心不全
- がん
- 薬剤(経口避妊薬、女性ホルモン製剤など)の使用
- 喫煙
深部静脈血栓症の診断には、採血の中で特にD-ダイマーと呼ばれる項目が重要です。D-ダイマーが上昇している場合は、血液中に血栓がある可能性が疑われます。また、下肢静脈超音波を行い、実際に下肢の静脈内の血栓を評価します。骨盤~膝までの間の血栓を中枢型と呼び、膝より末端の血栓と比較して、肺血栓塞栓症へ移行しやすいためより注意が必要です。肺血栓塞栓症が疑われる場合は、追加で造影CTや肺換気血流シンチグラフィーを行い、肺動脈の中に血栓がないか評価します。
静脈血栓塞栓症では、抗凝固薬と呼ばれる血液をサラサラにする薬剤で血栓を溶かすことが治療の中心です。抗凝固薬は少なくとも数か月間は服用しますが、血栓を溶かすことができた後も再発のリスクが高いと判断された場合は、長期に渡って薬剤の服用を行うことが推奨されます。肺血栓塞栓症の中には、抗凝固薬を適切に使用した後も血栓が残ってしまい、肺動脈が血栓によって狭窄・閉塞してしまうケースがあります。その結果、肺高血圧症といって肺に持続的に負担がかかることで、息切れや足のむくみ、失神などの症状を引き起こすことがあります。この状態を慢性肺血栓塞栓症と呼び、難病の1つとして定められています。過去に肺血栓塞栓症と診断されたことがある方で、新たに息切れなどの症状が出てきた場合は、一度医療機関の受診を行うことを推奨します。